山陽新幹線の問題・・・・・・大きい会社の小さい政府の問題

 最近、山陽新幹線の徳山とかその辺りで、高架橋のコンクリートが剥離し、鉄筋がむき出しになっているらしい(この間の某民法 TVニュースでやっておりました)。原因は骨材に海砂を使用したこと。その他に、トンネルの覆工の剥落とか、山陽新幹線には色々問題が多く、評判はあまりよくありません。なお、山陽新幹線は旧国鉄が施工したもので、今のJR西日本とは関係はありません。ところが、関東辺りには山陽で問題が起こると、これを関西の責任だと勘違いする馬鹿がいる。関東は平将門以来、馬鹿の勘違い野郎が多く産出するところだから仕方がないが。山陽新幹線の問題は大きくは次の二つがある。
     1、山陽新幹線で、国鉄の設計基準が大幅に変わった。
     2、国鉄の民営化
1、設計基準の変更
 これは若い人は余りご存じないかもしれない。特に大きな変更があったのは、トンネルと構造物である。トンネルでは、東海道では45pあった覆工厚が25pになったりした。これで迷惑を蒙ったのは建設省。会計検査で「鉄道の覆工は薄くなっているのに、何で道路は何時までも厚いままなんや」などと詰られて、建設省も設計基準を改定することになった。しかし、本当に迷惑を蒙ったのは、我々一般国民・納税者ではないか?数年前、長野県でトンネル覆工が崩落して人身事故が発生し、その後の調査であちこちで覆工の損傷が見つかり、その補修で莫大な費用を要している。不必要に覆工を薄くしなけりゃ、こんなことにならなかったかもしれない。
 構造物でもそうで、高架橋など殆ど建築の設計基準になってしまった。鉄筋も細くなり(正確には細い鉄筋を使っても良いことになり)。コンクリート被りも建築並に薄くなってしまったのである。更に重要なことは、従来使用が禁止されていた海砂の使用が、山陽で許可されるようになったのである。何故、こういうことになったか?というと、その当時の社会・経済情勢が大きな影響を与えている。
1)空前の高度成長、特に大阪万博を控えて工期の制約が極めて厳しかった。つまり、とにかく早くやれ、ドンドン行け!の時代で役人も政治家も世間も突貫工事をけしかけた。東海道のような、のんびりしたやり方では間に合わない。特に時間がかかるのは、トンネルと構造物である。これらの施工工期を短縮するにはどうすればよいか?ズバリ、ぎりぎりまで断面を縮小せよ、だ。しかし、役人というものは、基本的に、自分が責任をとらなくて良いようにするためにどうするか、を先に考える生物である。その結果が、鉄道技研に圧力をかけて、設計基準の見直しに繋がったのだろう。
2)従来、コンクリートの骨材に海砂を使うことはなかった。主に使用されていたのは、川砂である。昭和30年代までは全国各地の河川で川砂採取が行われていた。高度成長で、川砂の採取量が増えてくると、@河川水質の劣化、A河口の海浜の減少による漁獲高の減少、のような問題が発生した。これだけなら、建設省が動く訳はない。ところが、各地で河床低下という現象が発生し、橋梁基礎が洗掘されるという事態にまでなった。そこで、昭和45年頃だと思うが、建設省は全国河川での川砂採取を、全面的に禁止したのである。そこで困ったのが他省庁や土木・建築業界。山陽新幹線はまともにその影響を受ける。川砂が入って来なければ、新幹線は作れない。そこで、国鉄だけでなく、国鉄一家の土木業界も動員して、建設省はおろか、自民党辺りまで陳情して、海砂採取の許可を取り付けたのだろう。
 ところが、根室沖地震の後を受けた「新耐震設計指針」の影響で、この後の上越や東北新幹線では、元に戻って耐震設計をするようになったから、高架橋の断面は又大きくなった。平成7年兵庫県南部地震で、山陽新幹線の高架橋はガタガタになったが、この間の新潟県中越地震や、宮城県沖地震では高架橋そのものは何ともなっていない。軌道が揺れただけである。つまり、山陽新幹線ほど、旧国鉄当局のご都合主義に振り回された路線はないのである。
2、国鉄の民営化
 山陽新幹線でのトラブルが現れだしたのは、民営化してから5〜6年経ってからである。民営化後、どういうことが行われたかというと、列車の増便と、「のぞみ」の投入に代表される高速化である。これが鉄道施設にどういう影響を与えるか、について考えてみよう。
1)トンネル
 新幹線でトンネルに入ると、内圧がグッとかかるのは誰も良く実感する。これは、簡単に云うと、トンネル内の空気が列車の進入によって圧縮され、トンネル内の気圧が一時的に高くなる現象である。列車を圧縮する力は、そっくり同じ力でトンネルの壁(覆工)を圧縮する。(1)覆工が地山に密着しておれば、覆工には圧縮応力が働くだけなので、問題は少ない。但し、余り高速化が進むと、列車通過後に乱流が発生する。その場合、覆工に負圧が発生して、覆工表面に引っ張り応力が発生するので、長期的には覆工表面が剥離することはあり得る。(2)古い(在来工法時代)トンネルは掘削後、型枠を組んでコンクリートを流し込むが、重力が働くので、コンクリートはどうしても下に移動する。そのため、トンネル頂部には大抵空洞が出来る。そこで、コンクリート打設後、裏込め注入を行って、空洞を充填することになっている。ところが、この充填が上手くいくことは殆どない。つまり、在来時代のトンネルは、頂部に空洞が空いている、と考えてまず間違いはない。こういう状態の所に、列車通過に伴う内圧が加わるとどうなるか、というと、覆工は最早、版ではなく梁になり、外力としてモーメントが作用することになる。コンクリートが一体化しておれば単純バリだが、コンクリートの打ち継ぎ目にかかり、それが開口しておれば片持ちバリである。このモーメントは梁を折る方向に作用する。これが何度も繰り返し加わると、コンクリートはついには崩壊し剥落する。更にトンネル内で上下線が離合すると、大雑把に考えても覆工に働く外力は倍に増えることになる。
 民営化で、高速化が進み、列車が増便されると、トンネル内で発生する内圧が大きくなると同時に、繰り返し荷重が加わる回数が増えるのである。
2)高架橋
 高架橋も同じで、列車が通過する度に、柱には列車振動が作用する。振動とは圧縮と引っ張りの繰り返しである。コンクリートは特に引っ張りに弱い。一回毎の応力は僅かでも、これが繰り返されると、ついには材料の破断に達する(この破断は直ぐには現れず、長期間経ってから現れる。BSEかAIDSのようなものだ)。従って、供用中に発生する繰り返し回数は、許容繰り返し回数以内に収めなくてはならない。これが累積損傷度理論で、これは航空機や原発の安全管理に応用されている。土木でも、打ち込みグイの施工管理基準に採用されている。無論、これを無視する不届き者・・・・例えばJALといった航空会社や、関電といった電力会社*1・・・もいるが、大抵は天罰を蒙っているのである。
 仮に繰り返し回数がコンクリートの許容値を越えても、柱の内部には鉄筋が組み込まれているから、これが内部のコンクリートを拘束するので、破断は直ぐには、柱全体の破壊という形にはならず、コンクリート表面の剥落という形で現れる。しかし、内部にも目に見えない破壊が進行しているのである。では、同じ鉄筋コンクリートで、列車の運行本数だったら、山陽より遙かに多い東海道で、コンクリート剥落事故が起こらないのは何故か?これは上で挙げたように、柱の断面積が違うことと、東海道には海砂が使われていなかったため、コンクリートの耐久性が高いためである。

 現在では、プロだけではなく、高校野球でも、大体100球を目処にピッチャーを交替させる。東海道が9回完投能力のあるピッチャーとすれば、山陽は6、7回まで持てば良いレベルのものである。そういうピッチャーに9回完投どころか、延長20回になっても未だ投げさせているようなもので、いずれパンクするのは目に見えている。(05/11/05)

(JR西日本の見解)
 冒頭に挙げた、ニュース番組で、JR西日本の安全管理責任者である土木部長が、TV局のインタビューに答えて「@全面補修をしようとすれば、列車を止めなくてはならない。A今のままでも安全です。絶対大丈夫です」という意味のことを述べていた。土木部長ともあろうものが、こんなことを軽はずみに喋って大丈夫なんですかねえ。
@について;柱の取り替えだけなら、全面運休しなくても出来ますよ。民間土木の技術力を馬鹿にしてはいけません。例えば、ガーダーで桁を支えておいて、柱を取り替えるとか。柱を取り替えた後、桁を一晩で取り替えるとか。こんなことは、旧国鉄ならざらにやっていたことですが。今のJRには、当時の技術力が残っていないのでしょう。
A鉄筋がむき出しになった鉄筋コンクリートが、大丈夫であるはずがない。放っておいて、柱が一本でも座掘すると、高架橋そのものが傾斜する。そこへ高速の新幹線が突っ込んでくれば、尼崎事故どころではない大惨事が起こる。JR西日本という会社は未だ、尼崎事故を実感としてうけとめていないのだろう。再解体が必要かもしれない。

*1;昨日(0.5/11/07)、関電の秋山会長が定例記者会見で、「地方自治体の改革が遅れている。自治体職員の数は半分に減らせ」と、ぶちあげげたらしい。よくいうよ。美浜原発のデータ改竄がばれたの、はついこの間のこと。もし原発事故が起こったら、これまでのコストカッテングなど問題にならないコストがかかる。関電は潰れてしまうよ。自分のムラもろくに守れないで、他人のことに口先をだすんじゃない。たかが、電気屋の分際で生意気な。下郎下がりおれ、だ。


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